【エッセイ】ホテルに泊まってみたら充実したはなし
最近は仕事や家のことでストレスが多く
自分の居場所を見つけたい的なノスタルジックな気持ちになり
何んとなしに、新年価格の安かったホテルに泊まってみた。
部屋は7階のオーシャンビュー。
窓を開けると、ひんやりとしながらも心地のいい風が入ってくる。
(昼)
開けた窓を閉め、部屋の中を改めて見る。
ベッドは2つ、アメニティーも各2つずつ。
おおきなテレビがベッドと対になるように鎮座している。
家にいる時となにもやることは変わらない。
パソコンを開き、自分の心境を吐露したり最新のニュースを探す。
ただひとつ違うのは、その部屋にはだれもおらず
無音の時間が流れているということ。
時たま外から他のお客さんの声が少しだけ聞こえる。
『家族連れだろうか』子供の声にそんなことを思う。
少し疲れたのでパソコンを閉じ、普段は寝れないような
おおきなベッドに横になる。
テレビをつけ、毎週のように放送している番組をただ垂れ流しにする。
部屋の中には、大口を開けたテレビタレントの笑い声と
扉の向こうを走るちいさな声だけが響いている。
電気もつけず、ただ流れる時間。
日々時間に追われ、何かに追われ、プレッシャーや自分自身への不甲斐なさを
感じながら生きる。そんな日常から切り離されてた緩い時間が流れる。
どれくらいの時間が経っただろう。
ふと気が付けば、窓の外には黒が広がっている。
黒に染まる空と反して、街にはネオンが広がる。
(夜)
ふたたびパソコンを開き、今の情報を拾い集める。
ただ流れていく時間が心地いい。
『明日の心配などせず、自分のやりたいことができる。
そんな瞬間がこれほどに充実していて、ホッとするのか。』
そんなことを考えながら部屋の中に明かりを灯す。
人生を生きていると、隣にいる誰かのことが羨ましくてたまらないことがある。
仕事も恋愛も地位も。自分にない何かが羨ましい。
そういうキラキラに限って、とても眩しく手に届かないほどに遠い。
『いま遠くからこの部屋の明かりを見ている誰かも
この小さな光にどんなことを想うのだろうか』
ただ流れていく時間の中で
部屋の中には、大口を開けたテレビタレントの笑い声と
扉の向こうを走るちいさな声
そして、『明日からも頑張ろう』と決意する自分自身の声だけが響いている。